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Yahoo!ニュースの編集者とエンジニアとデザイナーは何を考えているのか?(その1/プッシュ通知とパーソナライズ)

月間100億ページビュー(PV)という莫大なアクセスを集めるネットニュース界の巨人「Yahoo!ニュース」。その影響力の大きさから、Yahoo!ニュースの「中の人」が何を考えているのかは、外部の人々、特にメディア関係者の関心の的だ。そのような関心に応えようと、Yahoo!ニュースの側も最近は積極的に情報発信をするようになっている。

その代表例が、昨年11月にリニューアルされた「Yahoo!ニュース公式ブログ」だ。ニュース編集部を始めとするスタッフがさまざまなデータを示しながら、その思考や活動の内実を紹介している。さらに、9月17日には、そのリアル版といえるイベントが東京・六本木のヤフー本社で開かれた。「real news "tech" HACK with エンジニアtype」と題されたイベントで、テーマは「公共性×編集×テクノロジー」だった。

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技術者向けのウェブメディア「エンジニアtype」の伊藤健吾編集長がモデレーターをつとめ、Yahoo!ニュースの編集者とエンジニアとデザイナー、そして、外部のメディア制作者が、ニュース分野における「編集とテクノロジーの関係」について議論した。

ディスカッションは2部構成で、それぞれのテーマとパネリストは次の通り(敬称略)。

第1部「公共性を支える編集とテクノロジー 〜編集とエンジニアのいい関係〜」

 

第2部「ニュースのUI/UX大激論 ~ユーザビリティアクセシビリティ〜」

  • THE GUILD 深津貴之
  • Yahoo!ニュース UIデザイナー 宇野雄
  • 日本経済新聞デジタル編成局編成部次長 重森泰平

 この2つのディスカッションは、ネットのニュースメディアの運営に携わる者にとって、非常に興味深く、示唆に富むものだった。その概要を何回かに分けて紹介したい。

まずは、第1部の前半。Yahoo!ニュースで重要な役割を担っている「プッシュ通知」をめぐる話から。

 

■「ニュース一般」と「ネットニュース」~異なるユーザーのニーズ

最初に、議論の前提として、Yahoo!ニュース編集部の苅田伸宏さんから、ニュースに関するアンケート調査の結果が紹介された。

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 これは、「ニュースにおいて何が重要か」という質問と、「ネットニュースにおいて何が重要か」という質問をたずね、それぞれに対する回答の比率を比較したものだ。「ニュース一般」と「ネットニュース」では、ユーザーが求めているものが異なっている。 

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 まず、「ニュース一般」で重要なこととされたのは、「誤報や間違った情報がないこと」(61%)、「記事・内容が公平であること」(50%)だった。それに対して、「ネットニュース」では、「重大なニュースが確実に通知されること」(44%)、「最新情報が掲載されるのが早いこと」(35%)といった項目が上位を占めた。

 つまり、ニュース一般に対しては、正確性や公平性が強く求められているが、ネットニュースに対しては速報性が重視されているという傾向がみてとれる。Yahoo!ニュースを始めとするネットニュースへの要望としては、「早く知らせてほしい、手元に届けてほしい、といったニーズが多いと感じられる」(苅田さん)というわけだ。

 苅田さんは、スマホ時代の到来により、どこでもニュースが見られるようになり、その傾向が強まっていると指摘した。

■高まる「プッシュ通知」の重要性

そのようなニーズに応える手段の一つとして、Yahoo!ニュースのスマホアプリの利用者に対する「プッシュ通知」がある。

プッシュ通知というのは、スマートフォンのアプリ利用者に対して、サービス事業者から随時送られてくる「お知らせ」のことだ。Yahoo!ニュース以外でも、SmartNewsやGunosyなどニュース系アプリでは、定番の機能となっている。

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このプッシュ通知の重要性について、苅田さんは次のように話した。

「プッシュ通知に対するニーズが非常に高まっていることは、日々の業務で実感している。プッシュ通知は、ニュースだけでなく、いろんなアプリがいろんな形で通知しており、スマホを利用している人にはとても身近なものだ」

苅田さんによると、スマホアプリのプッシュ通知は、ニュースの流通にとって非常に大きな武器になっているという。実際にYahoo!ニュースでどのように活用されているのか。最近の事例は次のスライドのようなものだ。

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上から、「東電元会長ら3人、福島原発事故で強制起訴へ」「調布の住宅にセスナ機墜落」「安保法案 衆院特別委で可決」「なでしこ 決勝で米国に敗れる」といった具合だ。事件・事故から政治、スポーツまでさまざまなジャンルの重大ニュースが並んでいる。これらの社会的に重大なニュースを、プッシュ通知によって「ユーザーの手元に直接届けることができる」というのは大きい。

このようなプッシュ通知が届いたとき、多くのユーザーはそのニュースを詳しく知ろうと、Yahoo!ニュースにアクセスすることになる。そのため、プッシュ通知が発信された直後には、アクセスが殺到することなる。次のグラフは、昨年12月の衆院選のときに、プッシュ通知がうたれた直後に、アクセスがポーンと急増した様子を示すものだ。

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Yahoo!ニュース開発チームの庄司和正さんは、「プッシュ通知があると、いろんなシステムが悲鳴をあげる」と苦笑いする。ただ、プッシュ通知が送られるような重大ニュースの中には災害のように人命にかかわるものもあるわけで、アクセスが集中したからといって、サーバをダウンさせることは許されない。

「プッシュ通知を開いたら落ちていたというのは最悪な状況なので、負荷対策はもちろんやっている。大きな負荷に耐えられるように、横にサーバを並べて負荷分散したり、万が一、震災などでデータセンターがつぶれても、他の拠点でカバーできるようにしている」(庄司さん)

このような突然のアクセス増加に対して、Yahoo!ニュースのエンジニアたちがどう対策をとっているのかは、Yahoo!ニュース公式ブログの次の記事で詳しく説明されている。

staffblog.news.yahoo.co.jp

■いつ、どのように「プッシュ通知」を出すべきか

ただ、編集サイドからみると、どのようにプッシュ通知を打つかは、まだ試行錯誤している面があるという。

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Yahoo!ニュース編集部の苅田さんは「push通知の失敗事例」と題したスライドを示しながら、7月28日のケースについて説明した。

この日は、午前中に、新国立競技場をめぐる動きを伝えたあと、午後に15時台から19時台にかけて、4本のプッシュ通知を発した。このうち、1本目は死刑判決、2本目は世界遺産推薦と社会性の強いニュースだったが、残り2本は、プロ野球の個人記録達成に関するものだった。

松井稼頭央さんと谷繁さんの記録も重要なものに違いないが、この結果、アンイストールが非常に増えてしまった」と苅田さんは振り返る。この2本のニュースについては、プッシュ通知を送った直後に、スマホアプリをアンイストール(削除)したユーザーが顕著に多かったというのだ。

「スポーツの記録や株価などの経済ニュースは、専門的に知りたい人はすごく知りたいが、そのための手段を持っていて、そちらで知ろうとしている。一方で、そうでない人にとっては、あまりほしくないニュースなのかな、ということを学んだ」(苅田さん)

Yahoo!ニュースでは、このときの教訓を踏まえて、プッシュ通知の間隔や一日の通知本数を調整しているという。

■ニュースにおける「パーソナライズ化」をどう考えるべきか

また、開発チームの庄司さんは、プッシュ通知の別の課題として「地域性」をどう考えるかという点をあげた。

「いまは、プッシュ通知を打つとき、アプリを使っている人全員に送ってしまう。たとえば、九州の大雨のニュースを、北海道の人がプッシュで受け取っていいのかどうか。このあたりは、課題として持っている」

この発言を受けて、エンジニアtypeの伊藤編集長が次のようにたずねた。

「ニュース界隈のアプリでは近年、テクノロジーをもとに、よりパーソナライズしていくというトレンドがあるが、どういう情報がみんなに読んでほしい情報で、どういう情報がパーソナルなものなのかという点については、どう考えているのか」

庄司さんは「Yahoo!ニュースでも、プッシュ通知以外で、すでにパーソナライズがかかっているところもある」として、スマホアプリでYahoo!トピックスの下などに表示される「タイムライン」をあげた。

ここには、ユーザーの閲覧履歴などを参考にして、ユーザーごとにパーソナライズ化されたニュースが表示されるようになっている。ただ、庄司さんによると、「100%、パーソナライズがかかっているわけではない」という。

「パーソナライズしすぎると、よくいわれるフィルターバブルの問題もある。人は低きに流れていくので、自分の好きなニュースばかり読むようにすると、エンタメ系一色になってしまうという問題もある。そこで、パーソナライズをかけすぎに、Yahoo!ニュースとして届けたいものをどうやって差し込んでいくかを日々考えている」

そのあたりのバランスはどのようにとっているのか。元毎日新聞記者という経歴をもつ苅田さんは次のように話した。

「ニュースの中には、これだけは読まれなくても届けるべきという情報があるはずで、そこに対する、編集側の人間の知見を磨いていかなければいけない。その点は日々、編集者の中で議論している」

また、さきほど庄司さんが言及したプッシュ通知における「地域性」の問題について、「地域ごとの出し分けができたら、すごくいいなと思う」と話した。

たとえば、先日の東日本豪雨は、茨城県、栃木県、宮城県などに大きな被害をもたらしたが、Yahoo!ニュースは、発生日と翌日の2日間で、10本のプッシュをうったという。その通知は、関西や九州など被災地から遠い地域に住むユーザーにも届いたが、「それでいい面もあると思う」と苅田さんは指摘する。日本に暮らす多くの人々に「世の中でいまこんなひどいことが起きている」ということを知らせる意味があるという点だ。

ただ、その一方で、苅田さんは「情報の出し先を絞ることで、もっと安心情報を提供できたり、生活に密着するような情報を届けたりすることができるのではないか」と、地域ごとの出し分けのメリットにも言及した。

ユーザーの「居住地域」にもとづくパーソナライズ化をどう進めていくべきかは、庄司さんや苅田さんが話すように、Yahoo!ニュースの中で、まさに議論が行われているところであり、まだ明快な答えが出ていないということなのだろう。

なお、Yahoo!ニュースと「地域」の関係については、Yahoo!ニュース公式ブログに、次のような記事も掲載されている。

staffblog.news.yahoo.co.jp

第1部のディスカッションは「前半」のまとめはここまで。後半では、Yahoo!ニュースの編集者とエンジニアが、「公共性」を意識しながら、どのように連携して、巨大なニュースサイトを運営しているのかが語られた。

その模様は次の記事で。

media.hateblo.jp